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第21話  

翌日、森岡翔は昼まで寝ていた。

 顔を洗って歯を磨き、森岡翔は金葉ホテルへ向かった。

 「森岡社長、こんにちは!」

 「森岡社長、こんにちは!」

 ホテルに入ると、彼に挨拶する従業員が後を絶たなかった。

 昼食を済ませた森岡翔は、そのまま会長室へ向かい、休憩することにした。

 しばらくすると、ノックの音が聞こえた。

 「コンコン…」

 「どうぞ!」

 中村薫が入ってきた。

 「森岡社長、ホテルの引き継ぎ手続きが始まりましたが、いつ頃、お時間よろしいでしょうか?」

 「薫姉さん、言っただろう?引き継ぎのことは、俺は口出ししないから、任せるよ。支払いが必要になったら、連絡してくれればいい」

 「分かりました。それでは、社長のご休息を邪魔しないようにいたします。あ、そうだ、今夜、引っ越してきますね!夜はドアを開けて待ってますから!」

 そう言うと、中村薫は、森岡翔が何か言う前にオフィスを出て行った。

 またか…

 また誘惑された…

 森岡翔は椅子に座り、スマホをいじっていた。

 ラインを開く。

 村上祐介からメッセージが届いていた。

 「翔、いつ大学に戻るんだ?」

 「明日かな」森岡翔は返信した。

 「翔、一つ、話しておきたいことがある。絶対に怒るなよ」

 「何だよ」

 「高坂の野郎、お前が血を吐いて倒れた時の写真を学内ネットにアップしたんだ。しかも、色々エピソード付きで…お前、今…すごい有名人になってるぞ!」

 「マジかよ!ちょっと送ってくれ!」

 しばらくすると、村上祐介から写真が送られてきた。

 それは、森岡翔が小さな森の中で倒れていた時の写真だった。

 「あの野郎、昨夜はほんの少し利子を回収しただけだ。これから、じっくりと痛めつけてやる」森岡翔は心の中で毒づいた。

 森岡翔は、再びスマホをいじっていた。

 そして、秋元詩韻にメッセージを送った。

 「今晩6時、金葉ホテルで会おう。来たら、名前を言えば大丈夫だから」

 「かしこまりました、マッチ棒社長。お会いできるのを楽しみにしています!」秋元詩韻は返信した。

 秋元詩韻は今、授業中だったが、朝からずっとスマホが気になって仕方がなかった。森岡翔からの電話やメッセージを見逃さないように、気を張っていたのだ。

 高坂俊朗や徳永勇のような、中途半端な金持ちのボンボンよりも、森岡翔のような大物と付き合った方が得策だった。

 彼女は、2億円もの大金をポンと貢いでしまう、この大物との出会いを心から楽しみにしていた。

 だから、森岡翔からのメッセージを見た瞬間、彼女はすぐに返信した。

 心の中では、もし相手がデブでハゲの変態だったらどうしよう、という不安もあった。しかし、森岡翔が本当にすごい金持ちのイケメンだったら…という期待の方が大きかった。

 秋元詩韻は金葉ホテルを知っていた。大学から近く、しかも江南省唯一の8つ星ホテルということで、江南大学では有名な存在だった。食事をすれば、軽く数十万円はかかったらしい。

 彼女はまだ、このホテルで食事をしたことがなかった。もちろん、彼女が望めば、多くの金持ちの息子たちが、喜んで彼女を食事に誘っただろう。

 午後の時間はあっという間に過ぎた。

 5時半、秋元詩韻はタイトなジーンズとぴったりとしたシャツを着て、金葉ホテルへやってきた。

 確かに、秋元詩韻は美しい。多くの金持ちの息子たちが、彼女に夢中になって振り回されていたのも無理はなかった。

 子供の頃からダンスをしていたため、スタイル抜群で、まさに天使の顔と悪魔のボディの持ち主だった。

 秋元詩韻が金葉ホテルのロビーに入ると、一人のスタッフが近づいてきた。

 「いらっしゃいませ、お客様。ご宿泊ですか?お食事ですか?」

 「こんにちは、秋元詩韻と申します。待ち合わせで来たのですが…」秋元詩韻は丁寧に答えた。

 「秋元様、かしこまりました。こちらへどうぞ!」

 スタッフは、秋元詩韻を1番の個室へ案内した。彼女は午後、森岡社長から秋元詩韻様というお客様を食事にご招待した、来られたらすぐに1番の個室へ案内するように、という指示を受けていたのだ。

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